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パネルディスカッション
第一セッション
「地域資源の蓄積と活用による コミュニティ自治力の強化策を考える」 |
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コーディネーター北海学園大学法学部教授 佐 藤 克 廣皆様お疲れ様です。この第一セッションは、「地域資源の蓄積と活用によるコミュニティ自治力の強化策を考える」という長いテーマになっております。幾つかのキーワードがあり、一つは地域資源であります。先ほども打ち合わせで、資源とは何だろうということが話題になりました。私の専門も武岡先生とほぼ同じで、行政学であります。よく行政を考える際に、resource(資源)とは何かということを講義で話します。講義では、権限、財源、人材、情報、政治的な支持など、色々織り交ぜてお話しますが、今日の「地域資源」と言った場合の資源は、例えばハードな建物や施設といったものだけではなく、まさに人材や地域の人々の統合力・総合力といったものを、地域資源と捉え考えていきたいと思います。 先ほどの黒川先生の講演で、コミュニティとは何かと第二セッションに問いかけられていましたので、そちらに譲りますが、もう一つのキーワードとして自治力という言葉があります。これも非常に分かりにくい言葉だと思います。自治という日本語は、明治の頃に作られた言葉です。地方自治というのは、何も戦後の新しい言葉ではありません。ただ明治の頃、言葉が作られた時は、地方が「自(おの)ずから治まる」という使い方で、現在は誰もそのようには読まないですね。「自(みずか)ら治める」と考えることが一般的であります。とは言いましても、自ら治めるとはいったいどういうことなのか。黒川先生のご講演に、参加、決定をどうするのかという問題提起がありましたが、これと自ら治めることとをどうつなげていくのか。こうしたことが第一セッションに課せられた課題かと思います。 とは言いましても現実問題として、私も含めここに登壇しているパネリストの皆様は、黒川先生のお話を今日初めて聴きました。その講演内容を直接受けてお話しすることには、なかなかならないと思います。ですから最初は、黒川先生からの問題提起を頭の隅に置きながらも、皆様が行ってきた地域活動、これまでの研究内容等をお話し頂き、我々の責任を果たして参りたいと思っております。 それでは、第一番目に平野さんに、地域での実践活動についてお話して頂きます。二番目は小川さんに、地域での様々な実践の中から、現に感じておられる種々の問題点・課題についてお話して頂きます。その後、安田さんから、地域での活動の実例を踏まえた問題提起を頂き、最後に武岡先生から、理論的なコミュニティ・地域の問題をお話して頂きます。それでは平野さん、よろしくお願いします。 パネリスト「いき・いき北の街」フロンティアの会副会長 平 野 義 文皆さんこんにちは。「いき・いき北の街」フロンティアの会副会長の平野義文です。どうぞよろしくお願いいたします。 まず、この会はいったい何なのか、全くイメージがわかないと思いますが、岩見沢の駅北はちょうど駅の裏側で、函館本線で分断されていてなかなか自由に行き来ができない。何本かしか橋がないような駅北地域ですが、岩見沢の行政の方々にしてみれば、その地域の人たちが勝手に何かやっているという、あくまで任意団体です。簡単に説明しますと、我々の会の目的は、岩見沢の駅北に住む住民意識の活性化をメインに据えています。場所は、地図でいえば岩見沢駅の真上あたりで、四つの町内会があり、駅北地区町会連絡協議会を形成しています。その隣に、若松地区町会連絡協議会が五つの町内会で成り立っています。この二つの町会連絡協議会と、九つの町内会が我々の活動範囲で一つの括りとしています。括りと言うのは、会を形成している人間が、ほぼ九つの町会に住んでいるという理由からです。 ![]() この会の発足のきっかけですが、本当に単純なもので、若松地区の中で、今の子供たちの環境をどうすればいいかという話から、何かできることがないかと、発起人である柳川さん(フロンティアの会会長)が、町内会で簡単な雪まつりを始めたのがきっかけでした。この方は農業を営んでいますが、いい意味ですごく変わった方で、もっと広い範囲で色々やっていこうという中で出て来たのが、先ほどの駅北という括りです。 二冬前の雪まつりから色々細かい活動をしており、昨年11月にいよいよ設立総会を行い、フロンティアの会を正式にスタートしました。現在の会員数は約40名。職業もバラバラで、年齢も下は30歳代から上は96歳の方までおられます。宗教、政党なども一切関係なく、共通しているのは、心から自分たちの住んでいる地域を何とかできるのではないか、という発想から集まったメンバーであります。ただ、我々が考えているのは、既存の町内会を非常に重要視しており、どんな活動をするにも町内会をベースに考えています。 町内会の現状は、定例役員会の参加や、全ての年間事業の参画義務、もしくは直接関係なくても、それに付随する様々な活動が結構重たくて、私くらいの世代でも、毎日の生活に追われる身としては非常に負担感があるのは事実です。なかなか地域の活動に参加することができない。そうなると、結果として無関心を装うしかなくなってくる。これが今の町内会の現状であると思います。このフロンティアの会の中で何か事業を行うには、一応決まりごとがあり、何か大きな事業の場合は実行委員会を作るという発想です。そうすることで、いつも同じような人が活動するのではなく、興味のある地域の人々が、その時々に組織に参加してくれると考えています。実行委員会を作るという訴えに対して、興味があれば是非来てください、なければスルーして結構ですというスタンスです。こうした気軽さが、若者を始めとする地域に全く興味のない層にとって、地域コミュニティに関わる大きなきっかけになるのではないか。即ち、我々の活動としては、地域活動の入り口的な役割を担っていければいいと思っています。 今年2月、実行委員会を立ち上げ、いわみざわ駅北雪まつりを開催しました。先ほどの九つの町内会の町会長にも何とか協力して頂き、実行委員会に加わって頂き、積極的に関わって頂けるようになりました。最初は皆さん、自分の町内会以外のことなのに、どうして関係あるんだというスタンスで、それを何とかもう少し広い範囲で協力して頂くまでに、ずい分苦労しました。実際には、皆で頻繁に集まって議論する場ができ、夜な夜な機械を持ち寄って雪まつりを作っていきます。全くお金もノウハウもないというスタートの中にしては、比較的大きな規模で、とても大成功でした。 しかし地域という括りの中で、何が最も良かったかというと、公民館等で打ち上げをしたのですが、お母さんたちが朝からオードブルを作ってくれて、我々が後片付けを終えて合流した時には、全ての料理がセッティングされていました。本当に地域だなあと思える ような活動を、ずい分とさせて頂きました。 我々の活動エリアの中心くらいに桜並木が整備され、非常にきれいな場所があります。今年5月、九つの町内会に回覧板を回し、会費1,000円で夜のお花見を催しました。桜も散って非常に寒い夜でしたが、雪まつりの話題性のせいか、200人の地域住民が集まってくださり、一つのシートに、今まで会ったこともない人たちと話す場ができる。あとは駅北とまちと文化形成、これから駅北が開発されていきますが、それを地域住民が知らなくてどうするということから、これは我々が主体ではなく、駅北地区振興協議会という我々と同様な考えを持っている会と勉強会を開いたりしています。 10月には秋の鮭まつりを開催し、同じく9町内会に回覧板を回し、晴天にも恵まれ、約150人が集まりました。鉄板を10人に1枚配り、全く見ず知らずの方とハシでつつきながら、地域の仲間として話しができるという環境が出来てきています。 見れば簡単な事業ですが、実際にはすごく難しいことだと思います。地域の中でやりましょうと発想したとしても、九つの町会に亘って案内を出す勇気があるのかとか、実際に人が来なかったらどうしようとか、そんなことを考えると二の足を踏みますが、会長のアクティブな能力もあり、どんどんかたちになってきました。我々が最終的に目指すのは、同じような地域に住んでいても、顔も名前も知らない人がほとんどです。今の9町会には、2,000強の世帯がありますが、道端で会えば挨拶するような関係になってほしいし、相談するような間柄になれるのではないか。こうしたことを繰り返しながら、作っている状況です。行く行くは、誰から頼まれたのでもなく、地域住民の方から、住民自治にしても、今後の地域の未来にしても、積極的に考えていけるような土台を作りつつあると思います。雑駁ですが会の説明をいたしました。 佐藤(コーディネーター) 有難うございました。今まで余りつながりがなかった九つの町内会を、横断的に結びつけていこうという、非常に画期的な動きだと思います。続きまして小川さんからお話を伺います。 パネリスト岩見沢市・緑が丘共和国委員会会長 小 川 孝 成実は先ほど、佐藤先生を中心にして、打ち合わせをいたしました。もし忘れないでいたなら、簡単に自己紹介をせよというお話があったので、簡単にいたします。基本的にはプログラムにある通りですが、昭和33年に同志社大学を2ヶ月遅れで卒業しました。学問は苦手で、遊びの方だけ上手になった気がしますが、それが影響して大した会社にも就職できず、そこで少し頑張ってみようと思ったのですが、10ヶ月目に父親からすぐ帰って来いと言われ、否応なしに家業の印刷会社を継ぐことになりました。その後、オーナー会社でありますので、私はどっぷりと印刷業に関わっておりました。今でも名目上の社長はそのまま存在しているわけです。 本論に入って、緑が丘共和国委員会と大変民主的な名前をつけていますが、それが良かったのかモデル地区の指定を頂きました。住民自治といっても、自分たちでできることは自分たちでやろう。場合によっては、自分たちでなければできないこともあるという気持ちがあったので、半分ニコニコしながら、引き受けたのが偽らざる実態です。 しかし行ってみると難しいもので、大変苦労しております。住民自治が簡単だと思った理由の一つに、私の歴史観が間違っているかもしれませんが、日本人は歴史的に農耕民族ですから、皆で支え合ったり助け合いながら、自分の地域を豊かにしてきた歴史があると思っていたので、住民自治もその延長線上で考えれば、そう難しくないという発想がありました。 また、地元の方はよくご存知だと思いますが、緑が丘地域について紹介します。JR岩見沢駅から南側に約3q、丘陵地帯でとても緑が多い。地域の中には、大学が一つ、高校が二つ、中学が一つ、幼稚園が一つと、文教地区といわれているところです。ちょっと目には生活環境がいいと思われている場所であります。そこに五つの町内会があり、総世帯数は約1,100戸、町内会に加入しているのは約850世帯、加入率は76%前後のところです。16年7月より、住民自治の勉強会を7回ほど行い、今でも覚えていますが17年2月14日、緑が丘共和国委員会を設立しました。直後に行政から、モデル地区だから頑張ってほしいというお話しを頂きました。モデルという言葉を直訳すれば、見本という意味にもとれるので、頑張らなくてはならないと意気込みだけはありました。 住民自治組織の体験的展望、経験を基にした将来像についてお話したいと思います。活動は結構やったのですが、手段であって目的ではないと思っているので、活動を通しての最終目的は、1,100世帯の人たちが本当に仲良くなることです。それが達成されたなら、住民自治はそう難しいことではないと思っています。いよいよモデル地区としてスタートを切ったわけですが、今でも地域の人からは顔を合わすたびに、町内会活動と住民自治はどこが違うのか、やっていることは同じだろうという質問が一番多い。私も最初は返答に困りました。同じように見えるのです。しかし最近になって、少しずつ答えが分かってきたような気がします。 町内会は任意団体であり、地域に住む人たち全員が加入しているわけではありません。緑が丘地区は加入率が非常に高い地域ですが、それでも76%。残りの24%は、地域として当然受けるべきサービスを、受けなくていいわけはない。同じ市民ですから、その人たちにも地域活動に参加してもらい、サービスも同様に受けてもらおうというのが、住民自治活動の基本であると思います。それと同時に、行政は今まで大変力があり、行政主導で町会活動をしていました。私も町内会長をしているのですが、年間活動費の半分、町内会費と同じくらい補助金を頂いており、活動の手助けをして頂いています。ただ、そこにはメニューがついています。こんな事業に使ってください、終わったら結果を報告してください。つまりメニューつきで、補助金を頂きながら活動することが多かった。ただメリットもあります。色々な町内会があって、他のことはよく分かりませんが、町内会活動の平均化された効果はあると思います。 マイナス面として、ともすれば予算消化型のマンネリ化になりやすいと思いました。どうしても、貰った補助金は全部使わねばならないということになりがちでした。 それから地域の特性を生かした、例えば緑が丘は緑が多いとか、公園が多いとか、学校が多いとか、という特性を生かした活動が失われているのではないか。 町会は会員数に凹凸があります。私共5町会でも、一番多い町会が260戸、少ないところは60戸くらいまでありますが、活動するには世帯数に関係なく固定費があります。会社経営と同様に、固定費の縮小は難しい。ここが大切なのですが、岩見沢の自治体は財政的に平均値よりずっと上だと聞いていますが、将来的なことを考えると、補助金減少の恐れがあり、活動や事業の縮小が目前に近づいている気がします。そこで、住民自治活動は、そうした弱点を補いつつ、メリットをどう活かしていくかが課題であると考えました。つまり、地域づくりのコストをどうやって下げるか、地域に合った特色ある活動・事業をどうすれば可能になるか、場合によっては自主財源を作る意識がもっと高まるのではないか。自主財源というのは、補助金に頼らず、自ら財源を生み出す事業も考えられるのではないか、と考えました。それによって、地域愛や連帯意識、支え合う心が同時に育まれていくと考えます。 これからのまちづくりですが、それらを前提に考えると、我々地域は、ソフト面を重点としたまちづくりをすればいいという結論に達しました。つまり、連帯意識の高揚や、地域でなければできない、地域だからできる事業があります。例えば、福祉事業は、ご近所付き合いをよくしていなければ、形だけのものになりがちですが、本当に心のこもったものになるのではなか。あるいは防災で、ここ数年に起きた大地震の報告書を読むと、人命を救った8割は、地域の人です。消防署、警察署、自治体、市の方というのは、災害の拠点に行くことすら難しい。やはり地域が手を差し伸べ、地域が支え合う防災でなければなりません。そうなれば、地域の仕事は明確化してきます。行政は何もしなくていいとは思いません。社会資本の充実、橋や道路、公園を作ったりすることは、頑張って頂きたいと思っております。 種々の事業の紹介は目的ではないので省略しますが、3年に及ぶ活動の結果、抱いた思いを紹介しました。最後になりますが、私も行政、市役所に大いに期待しているのですが、私たちの地域は私たちがつくるという住民意識の改革を、一生懸命頑張りたいと思います。行政は、会計方式が非常に分かりづらい。私共、民間人にとって分かりにくいので、是非、企業会計方式も並行して行って頂き、たくさんの会計を連結した状態で、市民に分かりやすい財政状況を示し、多くの行政情報を私たちに公開して頂きたい。その情報を、行政も市民と共有しながら、共同体としてまちづくりを推進する。このことが、3年間を通して私が体験的に思ったことです。抽象的なお話しばかりでしたが、皆様方と一緒に問題提起をしたいと思い申し上げました。有難うございました。 佐藤(コーディネーター) どうも有り難うございました。深い体験に根づいた今のお話の裏には、相当具体的な事例のことがあってのことだろうと思います。続きまして安田さんから報告をお願いします。 パネリストインタラクション研究所代表 安 田 睦 子こんにちは、インタラクション研究所の安田です。先ほどのご紹介の通り、私は道内の地域・まちづくりに関わる住民調査と、職員や住民向けの研修を行っております。研修のテーマは、防災や防犯、安心・安全なまちづくり、男女共同参画のまちづくり、これは去年の男女共同参画基本計画の二次プランの中に、まちづくりや防災の男女共同参画の視点、女性の視点を加えるようにという、今まで全くなかった新しい部分が出されました。私はその前から言っていて、やっと国が追いついたところで、嬉しい思いをしています。また最近は、社会教育の研修を通して、地域づくり、まちづくりを担う人材をどう育てていくかを、一昨年くらいから行っています。インタラクションという名称は、インターネットの世界でインタラクティブ(双方向性)という言葉があります。もちろんインターネットの世界でそれは特徴的な言葉ですが、地域計画つくり等でこれから一番重要になってくるのは、インターネットの世界ではなく、顔を顔が見えるかたちでのインタラクティブが重要になると感じていたので、この名前をつけました。簡単には「対話」と言っております。研修や調査の中でも、対話を重視しています。 今日は、黒川先生の講演の中に色々な言葉があって、こんなタイトルをつけてしまってどうしようと思いながら聴きました。「自治的コミュニティの形成に向けて、都市における近隣自治の仕組み」についてお話したいと思います。 まず、コミュニティとか地域コミュニティという言葉は、最近の基本計画、施策の事業内容の中に必ず出てきます。それに付くのが、再生という言葉です。でも、再生なのか形成なのか、これは現場に入って見ていると、今までのものを再生するのか、それとも、そもそも地域コミュニティという意識がないのではないか、という場面が見えます。今日は形成という言葉と、一部再生という言葉を使っております。そして副題とした「都市における」という言葉は、札幌市内のように、人が入れ替わりマンションが建ってきているところで、地域コミュニティや近隣関係をどう考えればいいのか、事例に基づいてお話ししたいと思います。 まず、地域コミュニティという言葉は、本や論文の中で色々な使われ方をしています。それで、話しをする前に少し整理したいと思います。まず、ある地域において営まれる共同生活、これは昔から社会学の中で使われている言葉のようです。その社会的特徴として、社会的類似性、共通する社会的観念、共通の慣習、共通の感情、そしてそれが一定地域に基づいて生じている。ところが、今は類似性や共通が非常に欠落している。それでコミュニティが崩壊しているとか、地域コミュニティのつながりが弱くなっているという言葉で表現されていると思います。 また、一定の地域に人々が生活することにより、共同感情が生まれ、共通の特徴が認められる。これは分かりやすい言葉で使われております。そもそもコミュニティとは、日本語の中になかったものです。地域社会というかたちで、コミュニティが訳語として使われ始めました。地域において目標とされる社会連帯を意味する、理念的概念、このように使われることもあります。 では、都市における近隣関係はどのように変わってきているでしょうか。色々な文献、私共が研修の中で、参加者アンケートをとったりした中から出て来た言葉を抜粋してみます。まず、プライバシーを守りたい。近所の人間関係に一定の距離を置きたい。挨拶程度で済ませたい。日常のゴミ処理に必要な範囲の付き合いに留めたい。向こう三軒両隣とは言うけれど、向こう三軒両隣がいるのか、いないのか。付き合いはマンション管理人だけでいい。古い体質の伝統的な自治会のやり方は好まない。義務的な負担はできるだけ避けたい。こういうことが、都市に住む住民の本音の部分だと思います。それが結局、地域コミュニティへの帰属性、共通感情、連帯感が薄いということになって表われてきているようです。今言われている地域コミュニティの形成を考えてみると、住民が帰属意識に気づき、共通感情が生まれる体験を経験し、連帯感を高めていくプロセスの部分が必要であるとして使われていることが、一番必要なものであると具体的に感じています。 去年一年間、札幌市中央区幌西地区で行った調査と、地域づくりのコンサルティングの仕事からご紹介したいと思います。福祉のまち推進センター事業というものが札幌市にあります。これは平成7年に始められ、幅広い市民の福祉活動への参加により、地域ぐるみで互いに支え合う環境を整え、誰もが安心して暮らせる地域社会をつくることを目的としています。目標としては、地域住民の日常的な支え合い、ボランティアによる福祉サービスと、とても素晴らしい内容になっております。事業の骨格は市が作り、どう進めるかは、それぞれの地域に合わせて、連合町内会、町内会、民生委員で仕組みを作ってくださいという制度です。ですから、それぞれの地区でやり方が違います。まちづくりセンターとほぼ同数の80幾つの福祉のまちづくり推進事業体ができています。 ![]() クリックすると拡大します。 幌西地区の地域特性は、人口が約2万人、世帯数は約9,700、高齢化率15.9(平成17年)、町内会数17、平均年齢41.3歳、若い感じもしますが、マンションが急に建ってきているので、新しい世代がどんどん流入していることと、古くから住んでいる方は高齢化が進んでいるので、幅が広い年齢層で、平均すると41歳ということになります。福祉のまち推進センターを、通称ふれあいセンターという名前に変えて、地区センターに拠点を持って10年以上活動していました。推進員が常駐して、行事や研修会、相談活動をしていますが、住民にはあまり知られていなく、変わってきた地区の住民ニーズに対応しているとはいえない状況にありました。今後、どのように福祉のまち推進センターを活性化していけばいいのか、1年間かけて取り組みました。 地域コミュニティ再生という言葉を使っている理由は、今の制度や組織を活性化させるということで、新しいものは作っていないからです。行ったことは、住民ニーズ調査、調査結果を住民に公表する。これは全てワークショップで、課題の認識、対策の検討をしました。そして、住民の意識が変わったあたりで、結果をどのように活動に展開していくのか、この流れを作りました。住民に、住民ニーズ調査自体に参加してもらう。質問表の設計、配布方法、協力を募る町内会の選定など、全て住民に協力してもらいながら、住民の主体性を育成するため、私共はサポート、主体は住民というかたちで進めました。重視した点は、その中でこの地区に対する帰属性や、共通感情が生まれる。また連帯感を持つ機会をどのように作っていくのか、あらゆるところで試みました。最初の段階では、既存組織の活性化を目標に、ふれあいセンター福まち推進事業の委員であるという意識も薄かったり、活動の目的も忘れていたり、理解されていなかった状況があります。また、アンケートでは、参加できるニーズ調査、その調査結果に対して住民がどう感じているのか、その意見は自分たちと共通か違うのか、を全てワークショップで検討しました。ファシリテーターとして私共が参加していますが、次の段階をどうするのか、いつ研修会を開催するか、どんな人に参加してもらうかということは、ふれあいセンター推進員の人たちで少しずつやっていくというかたちをとりました。 その後、「調査をしただけでおしまいにするのか、どうするか」と、皆さんの中から出てきました。「調査結果で色々なことが分かった」「これを活用しない手はない」「来年度の事業計画を考える際に、今まで通りに進めるのか」「これを何とか活かしていくのか」、という意見が自然発生的に生まれたわけです。小さな活動ですが、次の活動計画にそれを盛り込むことができました。実際には、ニーズ調査の準備では、質問表、アンケートの質問の順番、字の大きさなどを住民、町内会、福まちの方に見て頂きました。 ![]() クリックすると拡大します。 幌西地区全体の問題と、99%マンションの地域を対比してお話しします。全体としては通学路や公園の安全性、災害時の助け合い、除雪・雪捨て場がトップ3です。マンション地区になると、やはり除雪の部分が減っていますが、訪問販売や電話セールス等は同程度に出されています。また、病気や健康、介護保険等はマンションの方が高いくらいです。もう一つ、隣近所とはどのようなお付き合いをしているか、という質問も入れました。どちらもほとんど変わらないのですが、約半数が挨拶をする程度。ほとんどお付き合いがないのは15%です。これが都市部の近隣とのお付き合いの仕方です。実際にふれあいセンターに期待することは、幌西地区とマンション地区はほとんど変わらず、災害・病気などの緊急時のサポート体制、福祉情報の提供、交流の場つくりというのがトップ3です。住民報告会の場所、日程、どういう人たちを呼ぶか、どのように進めるかも、ふれあいセンター推進員の人たちが自分たちで決め、地域の特性を表しているため、選択して協力してもらった4町内会に還元する、聞いてもらいたいということで報告会を開きました。 ![]() クリックすると拡大します。 報告会では、調査結果についてどう思うか、を話し合ってもらい、マンション地区と戸建て地区で分けて行いました。ふれあいセンター自体が、知られていないという意見が非常に多かった。困り事・心配事については、マンションと戸建てで少し違う結果でした。アンケートについて納得しているところと、もう少し何かあるだろうという具体的な話が出ました。ボランティア・地域活動については、参加したいという意見が結構あったので、皆さん非常に驚かれ、「この地区も捨てたものではない」という意見が出ました。 結果報告会を次の活動に展開しました。この調査も報告会も終わったのが1月です。次年度の活動を計画する時期なので、それに入れられないかということです。センターが知られていないから、広報をしよう。ボランティアをしたい人が結構いたので、きっかけづくりをしよう。災害・緊急時の不安を抱いている人が多かったので、一人暮らし高齢者の防災対策を方針に考えよう。具体的には、広報部を立ち上げ、ボランティアを募るために、広報編集、子育て、ウオーキング、すこやかクラブのボランティア募集の回覧を出しました。一人、二人とボランティアをしたいという電話があったようです。防災対策として、防災福祉マップを作製する。今年度、この三つの事業が動き出しています。 ここで感じたのは、地域住民が共同の事柄を、自分たちで決めることができる兆しが見えてきた。私は、これが地域コミュニティ形成への道かと思っております。まず組織ですが、推進委員が自分の役割・仕事を理解していなかったり、あて職なので福祉部長の名前だけ貸している状況でした。1年かけた中で変化してきたのが、最初は皆さん集まっても他人任せ、不安、戸惑い、苦情、「なんでこんなことをしなければならないのか、忙しいのに」という話がほとんどでした。ニーズ調査の最初に手伝ってもらったことは、協力町内会を選び、どう協力を求めるのか、調査項目や配布方法をどうするか、また、予算がなかったので、2,000数百件の配布を町内会各班に頼むことでした。その準備から少しずつ自分たちでやるという意識になってきました。封入、配布、回収も拠点があるのでそこで行いました。 その調査結果が出たあたりから、少しずつ変わってきたのは、回収率の高さです。普通は20%いけばいいのですが、全ての地区で30%くらいありました。マンション地区は20%いかないと予測していましが、30%に達して一番高かった。皆さんここでとても気をよくされたというか、団結力、地域に対する関心が出て来た。ワークショップの参加の呼びかけを自分たちでするようになった。アンケート結果を知ることで、どういう地域かを改めて見る。また、地区で見ると、共通の課題もあるし、固有の課題もある。そうすると、個人で考えていたことが、地域全体に広げて考えることができ、客観的に見ることができます。そして初めて、地域ニーズの共有が皆さんから出て来たわけです。そうなってくると、出て来る意見は工夫や提案、そして次の行動計画になります。12月くらいからこうした意識が出てきて、実際の活動の実施になったわけです。一番最初の共通体験や感情の共有という部分は、地域コミュニティの形成・再生において非常に重要だと思っているところです。 ![]() クリックすると拡大します。 佐藤(コーディネーター) 有難うございました。札幌市のある地域での事例報告でありました。それでは最後に武岡さんに、こうした地域のあり方、コミュニティについて、最近どういった議論がなされているのかご報告頂ければと思います。 パネリスト札幌大学法学部講師 武 岡 明 子皆さんこんにちは。本日はよろしくお願いします。まず簡単に自己紹介をしますと、私は、今は札幌大学で講師を務めておりますが、その前に財団法人日本都市センターで研究員をしておりました。この財団法人は、全国市長会という全国の市長で構成される組織が親団体となり設立されたもので、様々な都市問題に関する調査・研究を行っています。私とコミュニティの関わりは、その財団法人に在籍していた時に、自主研究として取り組んだのが始めです。その研究の中で、全国の市に対してアンケート調査を行ったり、コミュニティ政策に盛んに取り組んでいる市にヒアリング調査に行ったりし、報告書を取りまとめました。それ以来、個人的にもこのテーマを追い続けております。その経験から本日は簡単にご報告させて頂きたいと思います。 まず、第一セッションのテーマが「コミュニティ自治力の強化策を考える」ということで、最初に考えてみたいのは、コミュニティの機能にどんなものがあるかということです。コミュニティの活動を分けると、三つほどあると思います。一つ目は自治的な活動です。もう一つは親睦的な活動。三つ目が自治体からの委託事務です。従来言われていたのが、コミュニティの主たる担い手である自治会・町内会は、ややもすると市町村の下請けとの批判もあり、その論拠が自治体から委託された活動が多すぎるという指摘でした。しかし、私が日本都市センタ−在籍時に、全国の市に対してアンケート調査を行ったところ、それとは少し違う結果が得られました。例えば市の広報誌を各戸に配布するという事務を自治会・町内会に委託している自治体は、3割弱しかありませんでした。その後も、委託事務はどんどん減っていると聞いております。これは恐らく、自治会・町内会への加入率が近年低下していることに関係し、自治会・町内会に入っていない世帯には広報誌を配布しないことが問題になり、自治会・町内会への委託をやめる市が増えてきているものと思われます。 自治体から自治会・町内会への委託については、先ほど小川さんから、いい面と悪い面があるというお話がありましたが、コミュニティの自治力を強化していくという視点からは、こうした自治体からの委託事務の減少は、いい傾向ではないかと個人的に思っています。 それではコミュニティのもう二つの機能、自治的活動と親睦的活動がどういう関係にあるのか。自治的活動とはどこから生まれてくるのかについて、お話しをしてきたいと思います。私見では、どうも自治的活動というのは、親睦的活動から生まれてくると言うよりは、逆に自治的活動をした結果、親睦が生まれることが多いように感じております。昔の井戸端会議がそうだったと言われております。女性が井戸端に集まって世間話をするというのは、世間話をするために集まっているのではなく、水を汲むという大変重要な仕事のために集まり、その結果頻繁に顔を合わせることから、色々会話するようになったということです。順番としては、自治的活動の方から、親睦的活動が生まれてくるのではないかと思っております。 とはいっても、今はなかなかコミュニティで顔を合わせることが少ないので、平野さんがなされている活動のように、まずは親睦を深めることもあるでしょうが、親睦的活動を自治的活動にしていくためには、何らかの工夫が必要ではないか。平野さんは、今そこで色々ご苦労されているのではないかと思っています。 自治的活動がどのように生まれてくるか、更にお話しさせて頂きますと、NHKに「ご近所の底力」という番組があります。「お困りご近所」というものが出てきて、だいたい自治会や町内会の方々がお見えになっているようですが、ご近所の底力を発揮する。その底力が発揮されるのは、危機に直面した時であると思っています。時々、自治体の方から、コミュニティを再生させるにはどうすればいいか相談されますが、コミュニティが特に困っているわけではない。特に危機があるわけでもないのに、行政がどうにかしたいと思っている節があります。危機でもないのに、行政がコミュニティに手を出す必要はないと思っています。また、危機に直面した際も、できるだけコミュニティの底力に任せ、行政は側面支援に留め、ある程度コミュニティの方を突き放すと言うか、そうした方が上手くいく場合が多いのではないかと考えます。 もう一つ申し上げたいのが、先ほど、黒川先生の基調講演に「コミュニティの担い手は誰か」という問題提起がありました。従来コミュニティというと、自治会・町内会をイメージされる場合が多かったと思います。一方、最近は新しくNPOやボランティアも出てきましたが、それらはコミュニティとは違う特徴を有していると言われてきました。例えば自治会・町内会の特徴としては、地域性があること、共同性があること、地域のほとんど全ての人が加入し、地域における様々な包括的な機能を担うことが挙げられます。之に対してNPO法人は、特に活動する地域はコミュニティレベルに限定されないし、そこの住民の方が全て入るというイメージもなかったかと思います。私もそういう思いで見ていましたが、NPO法人のことを色々調べているうちに、実はコミュニティの特徴である地域性、共同性、包括的機能を有するNPOが出てきていることが分かりました。包括機能型のNPOや、地区住民総参加型のNPOが出てきていることを、ご紹介したいと思います。 地区の包括的な課題の解決を目指すNPOとしては、東京都の多摩地域にあるフュージョン長池というNPOがあります。このNPOは、1999年(平成11年)に法人の認証を得ています。定款を見ると、主に多摩地域の住民に対してと、しっかり地域性が出ています。暮らし全般に関する事業を行うことも謳っています。NPO法人が行う活動として、当時、特定非営利活動は12とされていましたが、この12の活動分野全てを行うことを謳っていました。こうした地域の包括的な課題の解決を目指すNPOが出てきています。 また、地域の住民がすべて加入するNPOも出てきています。例えば岐阜県の山岡町は恵那市と合併することになり、山岡町という自治体の枠組みがなくなってしまうことになり、旧山岡町の区域でまちづくり山岡というNPO法人を立ち上げました。 人口は約5,000人で、1,500世帯ほどですが、その世帯から必ず誰かがNPO法人に加入するかたちです。このようなNPO法人が生まれており、コミュニティの担い手の選択肢が広がってきていると考えています。少々雑駁になりましたが、私からは以上の2点を報告させて頂きます。 佐藤(コーディネーター) 有難うございました。コミュニティの機能とは何かというところから始まって、最近では、コミュニティと類似の活動を行うNPOも出て来たというお話でした。 今、4人のパネリストのご報告がありましたが、他の方にご質問がありましたらお願いします。 平野(パネリスト) 武岡さんが言われたNPOの関係ですが、町内会等の機能を有する法人という考え方になりますか。法人格を持ったそういう団体であるというか…。 武岡(パネリスト) 町内会はNPOの内部に、きちんと存在しています。ただ、町内会をまとめると言うか、例えばまちづくり山岡は、元々町だったわけで、その町のレベルでまちづくりを進めていくための組織として作ったわけです。 佐藤(コーディネーター) 町内会ですと、地方自治法では「地縁による団体」という法人格を持てるようになりましたが、まちづくり山岡のようなケースは、合併で地域自治区という選択肢もあったかと思いますが、NPOに縛りがないわけではないですが、いわゆる国の法制度の縛りとは別に作られたということでしょう。 それでは私から、4人の皆さん方のお話について幾つかお聞きします。まず平野さん、武岡さんのお話では親睦的活動から始められたということでしたが、私が聞いたところではむしろそうではなく、雪まつりなどの活動から親睦的な活動になっていった印象で、武岡さんのモデルそのままではないかと思って聞いておりました。そこを確認したいのと、大変なご努力で町内会の協力を得たと思いますが、集まっている皆さん方は、黒川先生のお話に関係して言いますと、家族のいる人たちは比較的集まっているのではないか。一方、全国的に単身者、二人世帯が半数を占めるようになった。そうした一人世帯の方々はどうだったのでしょうか。 平野(パネリスト) どうしてこういう会を立ち上げることになったかというと、岩見沢駅舎が焼失して、今年6月に駅舎部分だけがオープンし、2009年には今の岩見沢市の部分と、駅北につながる自由通路ができます。先に述べましたが、今まで函館本線を挟んでまちが分離されていたイメージがあり、自由通路設置に伴って、駅北の降り口周辺で区画整理事業が始まり、一気に様変わりしていくチャンスの時です。行政主導で区画割だけがどんどん進んで、自分たち地域住民は、どんなふうになるのか、どういうイメージで広がっていくのか、全く分からない状況でした。いずれにしても、自分たちが住んでいる地域が、どんどん変わっていくという空気だけは間違いなくあったので、今、アクションを起こすことがプラスになると信じて会を興しました。従って、親睦が目的の会ではないことは間違いないところです。 単身者の方についてですが、やはり積極的に関わる方はおられない。お花見や鮭まつりにしても、来場する年配者は数多くいます。若い人は、子供のいない夫婦で、我々の近所に住んでいて、回覧板を見て来る方は意外といます。 佐藤(コーディネーター) それでは小川さん、大変含蓄のあるお話で、背景に色々なことがあるかと思いました。町内会と比べた共和国についてご説明がありましたが、やや言葉が悪いかもしれませんが、町内会がマンネリ化していくとすれば、共和国はマンネリ化しないのでしょうか。 小川(パネリスト) 大変厳しい質問だと思います。何が課題なのかを上手に取り出せないと、マンネリ化の傾向が現れて、同じ事業の引き継ぎになる懸念は十分考えられます。私たちは今、町会単位ではなく、5つの町会が一緒になってまちづくりをしようとしているわけです。そして町会だけでなく、学校、企業にも参加してもらっています。すると必ず何か課題が出て来るという期待を持ちながら、次年度へ向けての活動を行っています。佐藤先生のご指摘の通り、マンネリ化が出て来ることも十分考えられますが、とにかく頑張ろう、まちづくりの主人公は我々である、住民であると固く信じながらやっていますので、今のところは直面していません。そういうことは十分あり得るという認識の下、活動を続けていきたいと思っています。 佐藤(コーディネーター) 若干失礼な質問だったかもしれませんが、課題を常に発掘していくとお答えがありました。課題は見つけようと思えば、幾らでもあるもので、それがどんどん見つかっていけば、共和国も安泰であると思います。 続きまして安田さん、札幌市のお話で、他の道内市町村から見ると、規模が違うという印象を抱かれるかもしれませんが、今のご報告は人口2万人程度の地域のお話しでした、聞き漏らしたかもしれませんが、こうした動きのきっかけになったのは、札幌市役所の仕掛けでしたか。 安田(パネリスト) はい。福祉のまち推進事業が衰退し、動いていない、止まりかかっている。活性化策をどう作ればいいのか。今まで表に出ませんでしたが、地域の高齢者の孤独死が発生しています。この頃やっとマスコミ等にも出るようになりましたが、民生委員一人では抱えきれない状況がありました。今ある事業で、何か対策につなげたいと、相談を受けました。 佐藤(パネリスト) それに対応するために、こうした動きが出て来たということですね。地域の帰属性の醸成ということも出ていましたが、一般的に言うと、都市に住んでいる人たちは、農山漁村部に比べれば流動化傾向が高いと想像できます。その流動化傾向が高そうなところで、敢えて帰属性の醸成を提案された意味は何ですか。 安田(パネリスト) 転勤者が多く、転出入者が多いところです。転勤者の子育て世代の最大の関心事が、子供の安全です。この地区の小学校でも取り組んでいましたが、通学路の安全、安心して子供が遊べる状況を確保していくかも課題となっていました。そのためには、行政の力などで何とかするのではなく、地域の人たちが動かなければ、どうにもならないということもあったようです。その中で、この地区に敢えて住みたいと思っている若い人たちが多かった。その人たちに、この地区の教育・子育て環境を、少しでも良くしたいという思いがあったので、帰属性は育てられる、目を向けられると思ってポイントにしました。 佐藤(コーディネーター) なるほど。それでは武岡さん、コミュニティという言葉は最近多く使われ、黒川先生のお話にも色々出てきました。私が思うに、都市部におけるコミュニティと、農山漁村部におけるコミュニティでは、何か違うものを求めざるを得ないのではないかと思います。安田さんのお話にもあったように、都市部の場合は比較的人口が流動化している。これにはデメリットもあると思いますが、とにかく新しい血が入ってくるメリットがあります。幌西地区で言いますと高齢化率15.9%、これは人口が流動化すればそんなに変わらないわけです。若い人が出入りするので、10年後でも高齢化率はさほど変わらず、人が住んでいるという継続性も変わらない。一方、農山漁村部ではとにかく人口減で、札幌の幌西地区では帰属意識の醸成などと言えましたが、人口がどんどん減って、高齢者しかいないような地区で、帰属意識を求めていけるものでしょうか。都市部におけるコミュニティと、農村部におけるコミュニティでは、どういった違いがあるのか。また、その違いに対応した何らかの方策があればお示しください。 武岡(パネリスト) 大変難しい質問です。私は主に都市部のコミュニティを見てきましたが、農村部のコミュニティも見たことがあり、その事例だけを捉えると、都市部であろうと農村部であろうと、大きな違いはないという感想を持ちました。昔から、まちを変えるのは「よそ者、若者、ばか者」などと言われます。都市部、農村部どちらも、よそから来た人が、元々住んでいる人が気づかないその土地の良さに気づき、それを伝える役割を果たすことが多いように思います。昔は若者といわれましたが、最近は女性の力も重要だと思っています。これは特に農村部に言えるかもしれません。農村は今でも男性社会の面があると思いますが、その壁を打ち破ったのが、よそからお嫁に来た女性だったという事例を聞いたことがあります。 佐藤(コーディネーター) 実はそんなに違いはないということで、納得しました。先ほどからの私の質問はぶっつけ本番ですので、4人の方々によくお答えいただいたと感心したり、安心したりしております。フロアからも声を出したい方がおられると思いますが、残念ながら時間が限られております。残りの若干の時間で、第一セッションのまとめを行いたいと思います。 先ほど黒川先生からコミュニティへの参加、あるいは地域資源をどう捉えるかという問題提起がありました。佐藤馨一先生からも、「住民と市民」というお話がありました。今日のパネリストの皆様からのご報告では、「住民」という人もいないわけではないが、「市民」も多くいるということでした。パネリストのお話を聴いて、そうした方々をどのように活用できるか、埋れた資源が地域にまだたくさんあるのではないか、という希望を持てるようになったと思います。 ただ、私も色々な自治体において、市民の方々が加わった審議会等をお手伝いすることがあり、種々な経験をしますとおもしろいことが分かります。様々な苦情を申し立てるばかりの人たちも、部外者・乱暴者として除外すべきではありません。強い反発を持っている人たちほど、一旦納得してくれると、今度は非常に強い味方になってくれるという場面を何度か目にしました。要は説得の問題と言えるでしょう。都市には色々な人が住んでおり、色々な価値観の人が住んでいます。一人ひとりが、自分の利益を最大にしたいと考えていることを、最初から前提にした方がいいのではないか。こうすることで、あなたの利益を最大化できるということを、いかに上手く説得できるかというところに、黒川先生が言われたように、住民から市民への転換のヒントがあるのではないかと思います。 一人ひとりの価値を最大化することは、他の人の価値を踏みにじって、自分の価値を最大化することも可能ですが、都市には多くの人々が共同で暮らしているところですから、共同している社会、地域の全体的な価値を向上することが、自分の価値を向上させることになると上手く伝えられるかどうか。今日の岩見沢市での実践事例の紹介を聞いていましても、そこが非常に重要ではないかと思いました。よく市民の皆様方向けに、「時々は公共の問題を考えて頂ければそれで十分です」と申し上げるのですが、難しそうだなあという顔をされます。例えば、ゴミをポイ捨てしないなどということも、十分公共的な課題です。1人がその辺にゴミを捨てただけだと問題ではないことかも知れないことでも、100人、1,000人が捨てたらどういうことになるか。これはまさしく公共の政策課題になるわけです。誰も捨てなければ、道路清掃が非常に楽になる。そこに公共の問題を考える課題があって、そんなに難しいことではないとよくお話します。ある意味当たり前なことを、いかに当たり前だと思わせていくかが、コミュニティをつくる、自治力をつくっていくために非常に重要ではないかと思います。大いに活躍される方がおられるのは大変結構ですが、活躍しなさそうに見えても、地域資源になる人々がいることを認識しなければならないと思っております。 今日のパネリストの皆さんからは、その意味で地域資源はある、問題はそれをいかに活用するか、あるいはそれによって地域の自治力、自分たちで治め、コントロールするという力をつけていくそういうことが重要であるというお話しをそれぞれ伺うことができたと思います。 今日お出での皆様方も、それぞれの地域で何かできることを見つけることができるのではないかと思います。今日の実践事例などを聞いて、それはウチの地域ではできないとお考えになるのではなく、その手法はうちでも使えるぞ、という視点で参考にしていただけると、われわれのパネルディスカッションの意味もあったということになろうかと思います。皆様方にとって、4人のパネリストの方々の報告がお役に立ったことと思い、パネルディスカッションを閉じたいと思います。ご静聴ありがとうございました。 |
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