ま  と  め

北海道都市学会理事・企画委員長  淺 川 昭一郎

 企画担当の一人として、早朝から長時間にわたり熱心にご参加いただきましたことに、厚くお礼申し上げます。本日の基調講演、パネルディスカッションの内容は、非常に多様なものであり、私には総括する能力がございません。ただ、幾つか感想と思いついたことを整理してみたいと思います。
 北海道都市問題会議は今回で28回を迎えますが、過去の課題を見ると、いずれもまちづくりに関することであります。今回は地方都市の再生がキーワードですが、それに直接関わるものとして、例えば昭和57年に「活力ある都市の創造」のテーマで、帯広市で開催していますし、次の年は室蘭市で、「都市の活性化と産業振興」というテーマでした。昭和61年には「民間活力の導入とまちづくり」と、都市の再生に関わる問題に直接踏み込んでおります。
 一方、北海道都市学会と密接な関係にある日本都市学会では、昭和62年に「都市の再生」というテーマで大会を開催しております。今から16年前ですが、その中で、当時の京都大学の三村先生が都市の再生について書いておられますが、そこでは、再生という言葉は、瀕死の状態から息を吹き返らせることで、そこまで重症だとは思っていない。ただ、インナーシティの一部で、産業活動や人口減少によって都市の活動が減退しているところがかなり見られる。ですから、再生というよりも、再活性化の方がいいのではないかと述べられています。
 現在は、様々な社会情勢の変化の中で、都市人口の減少、特に都心部の衰退が著しい地方都市が多くなってきました。これは、高齢化や産業構造の変化、さらには車社会の進展といった状況の中で、大きく変わってきたことです。一部の都市では、確かに瀕死の状態になっているところもないわけではありません。鳴海先生のお話にあったように、都心の空洞化は、都市の魅力、活気を失わせます。多くの皆様も、このような状況に対処しておられると思います。
 当時、日本都市学会会長の故磯村先生が、再生にとって必要な四つの条件を挙げられています。一つは人間づくりです。ただ、この言葉は分かりにくいので、少し内容を見ますと、居住し、生活する人間の基本的人権が確保されることと言っておられます。私なりに解釈すれば、そこで生活できる、雇用があるということが基本だと思いますし、安全・安心な都市でなければならないということが根本であろうと思います。二つ目が、環境づくりです。これは一般に私どもがまちづくりと言っているような、ややハードな側面が中心になると思いますが、その中で非常に面白いのが、まちづくりの環境づくりというのは、市民それぞれの理想が反映されたものでなければいけない、と言っておられる点です。このことは現在にも当てはまる重要な視点だと思います。
 また、非常に大事なのは、三つ目の市民づくりです。都市形成に積極的に参加する住民が市民である、と言っておられます。現在の市民参画、協働につながるものだと思います。最後が、住民自治の必要性です。これもまた、住民が様々なことを決めていく今の時代に、欠くことのできない内容であります。そのように、当時は今のような状況まで想定していなかったかもしれませんが、現在の都市再生に向けて、基本的なことは指摘されていたと考えられます。
 再生の捉え方は非常に難しいのですが、死にそうなものを生き返らせるという発想も一つかもしれません。一方、最近は自然再生という言葉もよく聞かれますが、自然の再生となると、再生するモデルが比較的分かりやすい。元々その地域にあった自然に近いものをつくり出すことが、自然再生の基本だと思います。それに対して、鳴海先生からは、都市再生は元に戻すのではなく、別のかたちに変わっていく、という内容のお話がありました。ではどういう形に変わるのがいいのか。これには、市民の理想が反映するモデルをつくっていかねばならないわけで、それぞれの都市で、独自のモデルを模索していかなければならないと思います。私は、都市再生という言葉に、これから新しい都市を目指すという意味を含め、「創造的都市再生」と言いたいと思います。
 今までの議論の中にあったように、あるべき都市とは、生き生きして、多くの人が交流できる。あるいは記憶に残る、楽しいまちであるべきです。そのためには、二つの基本が考えられます。一つは、フィジカルな空間の質を高めることです。そのためには、自然や歴史、文化をどう活かし、どう次につなげるかであります。もう一つは、その都市の中で交流がどう行われるか。人との関わりだと思います。当然、環境と人とは相互に関係があり、その中で魅力的な都市をつくっていかねばらないと考えられます。
 今日は、具体的で示唆に富み印象に残る内容が多かった思いますが、そこから幾つか見ていきますと、まず、再生のテーマをそれぞれのまちでつくり、見出していくことが必要であるということでした。鳴海先生からテーマパークというお話も出ましたが、アメリカで都市再生に成功したといわれる、札幌市の姉妹都市ポートランドは、アーバンテーマパークと呼ばれることがあるそうです。いろいろなイベントや催しがたくさんあり、それを戦略的に都市づくりに活かしていることから、そう呼ばれると聞いています。そうしたものを、市民の皆さんが考え、つくり出していくことが必要であると感じました。
 その次に、テーマあるいはプランを作成していく際、長岡さんからは、Plan・Do・Seeをフィードバックしながら実践するというお話がありました。しかし、完全なプランをつくり、それに向けて実行することは、なかなかできるものではありません。絵を描きながら、実行しながら修正していくという、かなり動的な見方で考えればよいのではと思います。その意味では、プランを育てていく視点があってもいいと感じました。
 具体的に動き出すまでが大変だというお話もありました。やりたいこと、やるべきことを実行するのが大事であるというご指摘もありました。そのためにこそ、障害になる規制を取り払う努力をしなくてはなりません。これには民と官、産、学が様々な立場で協力して規制を排除しながら、自由に、やりたいことができるようなまちづくりを考えねばならないと感じました。
 次に、函館公園は明治初期につくられた大変古い公園ですが、市民の参画によってできた日本で最初の公園といえます。いわゆる協働でできた公園です。北海道にはそういった伝統があるのですから、今後の大きなキーワードになる市民の参加・協働の素地が十分にあると思います。
 また、鳴海先生は50年くらいと言われましたが、都市再生には非常に長い時間がかかります。そうした長期にわたる、たゆまざる努力が必要なのですが、そのためには楽しくないと続かないし、自分たちから次の世代へ伝える教育を、取り入れねばならないでしょう。また、外からの視点も必要で、長期的な努力へ向け、やりやすい環境をどうつくっていくかも、大事な視点であろうと思います。
 最後に、本日のテーマの「都市は蘇るか」です。皆さんは、どのようにお考えになるでしょうか。これは、どうしても蘇らせねばならないと思います。そのためには、“明るい人が、強い意志と熱い思い”が必要です。それによって、都市を蘇らせることができるという確信を皆様と一緒に持ちながら、まとめの言葉に代えたいと思います。どうも有り難うございました。


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