テ ー マ 解 説

北海道都市学会会長 矢 島   建

 皆さま、おはようございます。
 本日のテーマ「まちづくりのルネサンス」について、一日いっぱい議論を深めて参りたいと思います。なぜこのテーマになったか、ご説明させていただきます。
 北海道都市問題会議は今回で27回目で、昭和49年に滝川市で第1回が開催され、そのときのテーマは「行政と市民参加」です。昨年まで26回開催され、時間的には概ね四半世紀が経ったわけです。北海道都市学会と34市からなる北海道市長会、そしてそれぞれの持ち回りで開催地となる市の主催で行ってきましたが、その時々に応じた課題や問題が出されています。その間のテーマを簡単にたどってみますと、都市の活力、産業、都市経営、民活、都市環境、生活環境、交流のネットワーク、情報化、地域福祉社会、都市の魅力やアメニティ、アーバンデザインなどまちの顔に関する問題、最近ではまちの再生、人・仕組みづくり、まちづくりの戦略等々のテーマで毎年行ってきました。
 ちょうど四世紀過ぎてみますと、昨年、一昨年は20世紀から21世紀への転換期であり、この2ヵ年で新しい世紀のまちづくりという大きなくくりの中で、同じテーマで開催してきました。そのテーマの副題は「市民と行政の“○○”」というものです。一昨年、前世紀の最後には「市民と行政の協働」、新世紀になった昨年は「市民と行政の協創」をテーマにしております。第1回目も「行政と市民参加」であり、四半世紀でテーマが回帰していることがうかがえます。
 世紀の変わり目は分かりやすい時でもありますが、それを機に問題をクリアにしようという動きもあります。1999年から2000年にかけて、財団法人都市未来推進機構で全国の現職市長に調査を行いました。今の行政課題・問題は、高齢者介護やゴミのリサイクル、自主財源の問題などが出ています。私はそれを聞くと「そうだろうなあ、なるほどなあ」という気になります。四半世紀先の2025年を見越した場合、どのようになるかというと、先の問題を抱えつつ何とか解決していくという、いわゆるトレンド型の発想になっていきます。予見の方法の一つとしては正しいと思いますが、もう一つ面白いのが、四半世紀先に向けて望ましい都市像、どうあるべきかという希望を尋ねています。そこでは活力ある都市であることを求めていました。実は帯広開催の第8回都市問題会議でもこのテーマを扱っています。
 そのアンケートで、活力のある都市が望ましい都市像であるが、中でも特に重要な要素とは何かを問うと、一つは市民の意見が反映されている市民参加、次に地域の産業活動が非常に活発であること、もう一つは、まち中に多くの人が集まり活気があるというものでした。都市問題会議では、1回目、9回目、12回目でそれぞれを扱ってきました。
 この種の調査では選択肢を示されるとその中から概ね出てきますが、興味深いのは“その他”で、全国の市長から50数%の回答でしたが、全ての市民が生活の質を向上させ、豊かさを実感できる都市をつくりたいと述べています。その中で要素として重要なのは何かという質問に対しては、自然と文化が息づく環境をつくることであるという回答でした。そこではたと考えました。まさに豊かさを実感できる都市をつくりたい、生活の質も向上させたいがどうすればいいか。自然は分かりますが、“文化が息づく環境をつくらねばならぬ”という点にスポットを当てた都市問題会議は行ってこなかった。部分的にはあったと思いますが、正面から扱ったことがなかったことに気づきました。これは大変なことだと考え、本日のテーマになったわけです。
 調べてみると、都市の行政と市民、都市を研究している者が扱っている問題には、根本に市民と行政のテーマがあり、その中では都市経営、都市計画、都市交通などを扱っており、最近は、例えば「人間尺のまちづくり」、「まちの再生」あるいは昨年・一昨年の「次世紀のまちづくり」といった表現になっています。すなわち、“都市”と漢字で書かれたものから“まちづくり”という平仮名で表現されています。それには何かがあったはずで、分析はさて置き、直感的に感じるのは、都市と漢字で書かれると、職能として極めて分化され専門性の高い方でなければ扱えない。それは学問でもあり行政でもありますが、“まちづくり”になったとき、市民も大いに関係があることで、自分たちも何かできそうだというニュアンスを感じ取ることができます。根の部分は何も変わっていないと信じていますが、ニュアンスが大きく違ってきているのは、まさにルネサンスではないかと思われます。
 ルネサンスの理解も正確かどうか不明ですが、13世紀頃イタリアで起こりました。中世の文化は、社会の秩序すべてが神様を中心になっていたが、ルネサンスによって人間を中心とした近代的社会の構築に変化したことを考えますと、まさに、その変わり目にある私たちの都市計画、まちづくりを市民との協働や参加の中で進めていかねばなりません。
 今日は「〜交流と文化、そして豊かさ〜」として、まさに先述したルネサンスの先駆国イタリアご出身で、日本文化や東洋の文化がご専門のランベッリ・ファビオ先生に基調講演をいただき、都市にまつわる全てのことについて「文化」という切り口で論じていただければ有り難いと思っております。午後からはパネルディスカッションを行います。文化と歴史は表裏一体ですが、文化の器として歴史的なものをソフト面も含めて初期の段階からどのように積み上げてきたかを、金沢市からお越しの水野一郎先生に一例を発表していただきます。また、小樽といえば運河、倉庫群など多数ありますが、そうした歴史的遺産の器に産業が入り、まちづくりを展開している事例を地元の庄司さんにお話しいただきます。
 また、食文化の観点から、小樽ワイン副社長の嶌村さんに話題提供していただきます。それから、そうした“物”と言いますか、手に取れるものではなく、歴史的なまちそのものが器であるとして、しかも北海道、小樽という風土におけるまちづくりの活動として、「小樽雪あかりの路」を企画された一人である米花さんにも話題提供していただき、議論を深めたいと思います。また、国際的に芸術家として文化活動をされ、ご経験も豊かなピアニストの中川和子さんからも事例などをご紹介いただきながら、歴史・文化でまちづくりを切ってみます。そして最後には、何か豊かさにつながるものを見出すことができれば有り難いと考え、本日の都市問題会議のテーマを設定したわけであります。
 後半は、地元でアドバイザー的に活躍されている小樽商大の船津先生、当学会会員であり、小樽市の都市計画にも関わっておられる札幌大学の千葉先生、そしてランベッリ先生にも加わっていただき、皆様方からもご意見をいただきながら組み立てていきたいと思います。そして実のあるものとし、職場などに戻られた際、単にイベントが終わったというのではなく、やるぞ!という何かが掴めればいいと考え、テーマを分けずに一日いっぱいかけて進めたいと思います。
 本日はよろしくお願いいたします。有難うございました。


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