カルマル市
(スウェーデン)
10月22日(水)曇のち雪
富良野市 秋田  行
紋 別 市 鈴木富美夫

◆主要研究課題〜産業クラスターについて

1.はじめに
 スウェーデンは、スカンジナビア半島の東側を占める北欧最大の国である。
 東はフィンランド、西はノルウェーに接し、南はオアスン海峡を挟んでデンマークと向かい合っている。国土は2,700kmもの海岸線が続き、およそ半分が森林に覆われ9万以上の湖が点在している。
 鉄鋼、森林、水資源の活用により過去には一人当たりの国民所得が世界第2位を維持した時期もあった。
 現在も高度な生活水準を保つ有数の福祉国家である。また、中立と人道主義を掲げ、国際外交上も特異の立場を取るとともにノーベルをはじめ多くの科学者を世に送る文化国家でもある。
 国土面積約45万(日本の約1.2倍)に対し人口約894万人で、EU政策の積極的参加、軍事非同盟政策、国連との協力重視、さらには国連の活動を通じた国際平和維持協力などを外交の基本方針としている。
 経済概況としては、2001年末以降、個人消費や設備投資の堅調な伸びから成長率は2002年度1.9%と安定した推移を見せている。
 また、雇用情勢については一時の高失業率(9.9%)から大きく改善され、2001年以降4〜5%台で安定した状態が保たれている。
 スウェーデンは、外交基本方針としてEU政策に積極的な参加を行っているが、ユーロについてはイギリス、デンマークと共に参加していない国である。
 ユーロ参加への是非を問う国民投票において主権喪失への抵抗感、独自の経済政策への危機感と共に福祉水準低下への懸念や好調なスウェーデン経済と対象的なユーロ圏経済の低迷などの理由から、反対55.9%、賛成42.0%によりユーロへの参加が否決されている。
 注目すべき大きな特徴として、2000年7月にデンマークのコペンハーゲンとスウェーデンのマルメを結ぶオアスン橋が開通し、両国が鉄路で結ばれたことによりスウェーデン・デンマーク2国にまたがる地域における発展政策として中小都市連携による250万人から350万人圏の地域クラスター形成が取られているとのことである。(いずれ研修の機会が持たれることを期待したい)

2.カルマル市の概況
 バルト海に面するスウェーデン南東部に位置し、スモーランド地方の中心地であるカルマル市は中世からの商業都市である。
 「カルマルを支配するものは、海峡の交通を支配する」と言われ、デンマークとの間で領有権争いが繰り返された市である。
 森と湖に囲まれ、デンマークの攻撃からまちを守るための城壁を一部残す美しい港町であり、スウェーデンで最初にISO14001の認証を取得した環境都市である。
 市域面積956ku、人口約6万人で主な産業としては農業、食品加工業、製造業である。
 特に、中小企業の数は4,000社を超え、かつ、これらの企業についてはいずれも急成長しているとのことである。中でも成長の著しい企業はIT関連産業であり、理由の一つとして産学連携を積極的に推進してきたことによるものである。

3.産業クラスター
 今回の調査にあたって産業クラスターという言葉が全く出てこなかったことが大変印象に残っているが、カルマル市におけるクラスター(サイエンスパーク)の取り組みについて報告する。
 サイエンスパークの取り組みについては、1987年スウェーデンのロネビューにソフトセンターが設立され、その目的として「研究開発は大学と民間企業の協力が有効である」との産学連携の考え方に基づき、多くの成功を収めていることから各地域においてもソフトセンターの設立が見られるようになってきたところである。
 カルマルサイエンスパークについても民間企業とカルマル大学、カルマル市のネットワーク構築を目指したものであり、1999年に企業20社とともに設立されたものである。
 注目の一つとして目的にある企業誘致にあたって人口6万人のカルマル市だけでは企業にとっては小さな町であるが、100km圏内にある3つの町を合わせると25万人の町となる。このことは企業にとって選択の大きな要素となり、かつ、それぞれの町として大学を抱える条件があることから広域的な視点での取り組みとなっていることである。
 一方、市としては人材育成を進めるべくカルマル大学との支援に力を入れており、その成果が現在あらわれてきているところである。
 この取り組みにあたって最も重要なことは、市民の理解が不可欠なことである。
 一つは、人材を育てていくことに興味を持ってもらうこと。もう一つは、大学と企業を結び付けることは行政の役割であり、しかも時間のかかることをしっかり頭に入れておくべきであるとの示唆を受けたところである。
 具体的には産業クラスターについてカルマルサイエンスパーク(ソフトセンター)の取り組みについて報告をする。

4.カルマルサイエンスパーク
(ソフトセンター)

 カルマルサイエンスパークについては、1999年に20のTIME(Telecom,Informatiom,Media,Entertainment)企業とカルマル大学、カルマル市のネットワーク構築を目指し設立されたものである。
 センターとしての役割は、一つには企業に対しTIME市場で有利に活用できる競争力のあるサービスの提供。
 二つには、新しい情報の提供、企業・大学・行政間の協力体制の構築。さらにビジネスチャンスにつながるようなネットワークづくりなどが挙げられる。
 具体的な活動として、パートナー企業、大学、周辺地域のマーケティング、国内だけではなく外国のソフトセンターとのネットワーク構築、会員企業の誘致、人材募集及び地域や国籍を超えた産学連携プロジェクトの施行が挙げられる。
 組織形態は株式会社で大手民間企業2社と市が株主となっている。そのほか大手2社を除く22社が参加企業となり1株保有をしているとのことである。
 人員の配置として社長1名、インフォメーション1名、バイオ技術者1名、警備員 1名などであり基本的には総合的にまとめる会社であることから組織として大きくては駄目とのことである。企画、あるいは専門的対応が必要となればそれぞれ対応可能な企業とコンタクトを取ることになっており、運営、企画等については株主による委員会をはじめ企業、大学で構成する別組織で検討が行われる。
 サイエンスパークは、1980年代の造船所跡を活用し建設整備は現在も進められているが古いものも残しながらの整備である。
 新しいメインの建物には、目的からして交流しやすく、かつ閉鎖的にならないようレストラン、会議室などを一般に開放し、メンバー企業間だけでなく対外的にも一層の交流が促進されるよう理念設計がなされている。
 また、2003年春より、新しくスタートした企業に対し2年間を限度に入居可能とするインキュベーター制度を設け企業育成にも努めている。
 サイエンスパークエリアは、企業・住宅の混在する地域であり、参加企業に対し事前調査を行う中で住居の必要性を確認し、住宅建設についても配慮しているところである。
 現在、90戸が確保され、賃貸61戸分、売却29戸分となっている。(売買価格例 177u約4,500万円)
 サイエンスパーク内にある企業は40社であり、そのうちメンバー企業については24社で、建物に入らなくてもメンバーになることは可能である。
 ソフトセンターの役割として前段で報告したとおりであるが、再度強調すべきことは多くの企業に集まってもらえるよう、また、仕事がしやすい環境を作ることであり、企業と大学の出会いの橋渡し、新しい企業には基本から助ける体制、企業間の連携とともにそれぞれの持てる機能が十分発揮できる環境の整備である。
 センターのメンバーになる基本条件として何らかの形で大学と連携のあること。又は結びついていける企業、さらに学生が就職可能なものであることとなっている。しかし、これについては絶対的条件ではないとのことであった。
 現在パートナー企業のもとに1,500人の雇用が存在し、カルマル大学には約500人TIMEセクターを専攻する学生が在籍している。その結果、卒業後もカルマルでの雇用拡大が図られる効果を生み出している。
 最後に財源については回答をもらえなかった。
しかし、企業進出や雇用の拡大状況からクラスターというフレーム形成は当初目的に近いものがあると感じたところである。

5.おわりに
 今般、産業クラスターについての調査研究にあたり、これまでのシーズに対する考え方から見て比較にならない規模での取り組みに驚きを感じたところである。
 世界的に見ると、シリコンバレー、フィンランド・オウル市など一つの事例として聞いているところではあるが、カルマル市におけるシーズについても、大規模な企業誘致であり、また、人材育成であるが地域の環境や諸条件を十二分に活用した取り組みであった点に着目すべきである。
 中小企業を主体に企業、大学などが集積し、人材技術、ノウハウが結合することで互いに利用しやすい状況になっている。
 また、地域外への強力なネットワークが築かれており、企業があらゆる機能を丸抱えしなくても外部経済効果が期待できる特徴ある地域社会を形成している。
 地方産業が厳しい局面を迎えている中で各地域において、ベンチャー企業の育成など産業起こしのさまざまな試みがなされている中、よくよく我が地域を見渡し厳しい自治体環境の中で、行政としての総合的な支援策はどこにあるのか、課題は大きいものがある。
 カルマル市長表敬訪問に際し、ヘンリクソン市長は、本年春に日本で環境についての講演を行っているが、日本は、森林が豊富にもかかわらずせっかくの資源が活用されていないとの印象を持っている。
 特に「宿泊したホテルなど、すべてが西洋化され、木材の使用がほとんどなされていないなど環境に配慮すべきところがまだまだあるのではないか。」との指摘を受けたところである。
 また、2004年も来日の計画があり、日本語の名刺を創るのだという親しみを持って歓迎いただいたことに感激をした。
 特に「環境に優しいことは経済的に損をしない」という言葉が非常に印象的であり、吟味すべき示唆であることを申し上げ報告とする。