エスポー市
(フィンランド)
10月20日(月) 曇時々晴
深 川 市 伊東 幸次
登 別 市 道林  博

◆主要研修課題〜少子化対策と高齢者福祉施策について

1.はじめに
 森と湖、サウナ、サンタクロース、ムーミンなどで知られている北欧の小国フィンランド。
 フィンランドは、北ヨーロッパ・スカンジナビア半島の根本、バルト海の一番奥に位置する共和国。北緯60度から70度にわたり南北に細長く、国土の3分の1が北極圏に位置し、アイスランドに次いで世界最北の国。東にロシア、西にスウェーデン、北はノルウェ−と国境に接する。
 面積はおよそ338,000kuで、日本の面積から九州を除いたほどの国土に約520万人の人々が暮らしている。
 高齢化率は2002年末で15.3%とスウェーデンの17.2%など他の北欧諸国や日本の現在の高齢化率18.8%と比べても低い。今後、急速に高齢化が進み、2030年には26%になることが予測されている。
 北欧型の医療・福祉システムを持つフィンランドは、理念的にはそれを支える憲法と実質的にはそれを実現するための税制度によって支えられている。消費税率は最高で22%、所得の約50%が国・地方の税で持っていかれる。これは夫婦共働きの標準的な世帯の生活水準が保たれるような税の仕組みとなっている。
 国土の65%が森林、10%が湖沼と河川、8%が耕地という自然の宝庫、山が少なく平坦で広大な原野、点在する湖、無数の島々。
とりわけ氷河時に造られた湖は、約18万8千(面積500u以上)といわれている。
 気候は、高緯度に位置するにもかかわらず、
スカンジナビア全体を暖めるメキシコ湾暖流の影響で比較的温暖。夏は夜になっても太陽が沈まず、一日中明るい白夜が続き、冬は昼が短く北極圏では太陽が昇らない日が続く。
 公用語はフィンランド語とスウェーデン語。
道路名や駅名などが2言語で記されている。
 フィンランドはスウェーデンの支配下にあったが、1917年に帝政ロシアから独立、苦難の道を歩んできただけに愛国心の強いのが特色である。

2.フィンランドの高齢者福祉
 フィンランドでは、「ゆりかごから墓場まで」という言葉で表されるとおり、さまざまな福祉サービスや生活補助が整えられている。
 特に失業、疾病、健康上の問題による就業停止といった理由で生活弱者となる時期にも国民が平等な生活水準を維持し、生活できるような制度が確立している。
 これら社会福祉の各種サービスに関しての決定は、国がガイドラインを示し、運営の詳細は各自治体に任されている。実際は、フィンランドの自治体は人口的規模が小さいため、複数の自治体が協同でサービスを提供し、また、民間の力も積極的に受け入れている。

(1)フィンランドの社会保障
  @ 予防目的の保健医療政策
  A 社会福祉サービス
  B 所得保障
の3つの柱で成り立っている。保健医療と社会福祉サービスは自治体、所得保障は国が担当し、国と自治体の役割分担は明確である。

(2)自治体が提供するサービス
 社会福祉サービスや保健医療サービスは、すべて自治体が提供している。そのサービスは、「住民全員への基本サービス」と「特別法に基づくサービス」の2種類に分かれている。
 「基本サービス」は、実施方法と規模を財源に応じて自治体で決定する。「特別法に基づくサービス」は、自治体の義務として定められ、財源の多少にかかわらずサービスを提供しなければならない。
 たとえば6歳以下の全児童への保育、知的障害者の教育、重度障害者への教育サービスなどがある。

(3)自治体によるサービスの提供方法
 自治体は社会福祉サービスの供給を、近隣自治体と協力して実施している。また、複数の自治体が自治体組合を結成し、民間サービスを買い上げて提供しているところもある。
 自治体が民間の非営利団体(NPO)に契約費用を支払い、サービスを外注委託している。

(4)フィンランドの高齢者政策
 高齢者政策は1982年の国連勧告に基づいており、その政策の目標は次の3点
@ 高齢者の経済的自立
A 生活を滞りなく行うためのサービスを選ぶ自己決定権
B 一般社会の生活から孤立しないこと
 これらの目標を達成するために国が年金政策と住宅政策を練り、その政策に基づいて自治体が保健医療サービスの充実に取り組んでいる。

*年金政策
 年金には、基礎的年金である国民年金制度と労働所得に基づく労働年金制度(日本でいう厚生年金)の2つの制度がある。加えて高齢者の場合は、必要に応じて国民年金の補足として住宅給付と介護給付を受けることができる。

*保健サービス
 病気、障害、高齢になったときに保険でケアを受けることができる社会保険制度があり、財源は主に税金と社会保険料である。

*高齢者に対するサービス
 高齢者に対するケアは、在宅ケアと施設ケアに大別されるが、国の高齢者政策では、できるだけ老人ホームや保健病院などへの入所を遅らせ、在宅ケアが中心となるよう努力している。その理由として
@住み慣れた地域で暮らすことが本人にとって最もよいという考えが一般化した
A高齢者自身もそれを望んでいる
B在宅ケアのほうが自治体にとってサービスにかかるコストが低い

3.エスポー市の概要
 エスポー市は首都ヘルシンキの西隣に位置し、首都圏を形成する4都市のひとつ。人口約22万2千人。他の市から見ると若い人が多く、18歳未満が25.5%を占める。
 18歳になると大人として選挙権を有し、親から独立する。また、フィンランドでは子どもが親の介護をする義務がない。その義務は国にあり、実質的には各自治体が負うことになっている。
 エスポー市は戦後、都市計画によって開発された都市で、5地区に分かれ、各地区の中心地にそれぞれの行政センターと商業エリアを持ち、それを囲むように居住地域が広がっている。
 周辺には豊かな自然が残り、近代都市と自然が溶け合った街並み。首都ヘルシンキに近いことから若い家族が流入し、首都近郊都市として急速に発展している都市である。
 エスポー市とフィンランド全国平均の年齢別の人口構成は、
      (エスポー市)(全国平均)
0歳から6歳    9.9%    7.8%
7歳から15歳   12.1%   11.2%
16歳から24歳  12.0%   11.3%
25歳から64歳  57.1%   54.4%
65歳以上     8.9%   15.3%

 エスポー市の現在の高齢化率は8.9%と全国平均からみるとかなり低い。失業率は6.5%(全国平均は10%前後)で、他の自治体からみると低く、また、教育程度は高等教育を受けた人が多い。高齢者は健康で高収入であるといわれているが、4分の1の高齢者が大学教育を受けているせいなのかも知れないとのことであった。
 生活程度も良いし、住宅を持ち、そういう意味では条件もよく長生きできるだろうといわれている。これがエスポー市の福祉医療サービスに影響を与えているとのことである。
 いま、エスポー市では構造改革というか組織の改革が進められている。
 首都ヘルシンキの近郊都市であることから流入人口が増加する中で、一部の地域に人口が集中し、5つの地域に人口の格差が出てきたことから、住民が受けるサービスに地域間の差が生じている。
 将来、高齢化が進むことから格差解消とコスト、財源などスリム化・合理化を図る目的で福祉サービスの行政組織改革について議会に提案し、議決された。
 その内容は、現在の福祉サービスは5つの行政区ごとにそれぞれが医療と福祉を一緒に実施している。
 これを4つのテーマにしぼり、@家庭と福祉、A保育、B医療、C高齢者サービスについて専門にやっていこうというものである。
 今までは、これら4つのサービスが含まれた予算を5つの地域に配分し、それぞれの地域で事業を実施していた。しかし、この方法では地域間でサービスに格差が生じていることから、新しい組織では4つのテーマごとに予算を分け、それを5つの地域に配分することにより、サービス内容に地域間の格差をなくすことができ、平等のサービスとなるよう改革しようとしたものである。

4. エスポー市の高齢者福祉施策
 エスポー市では高齢者サービスに3つのテーマをもって行っている。
 @生活をクリアしていく
 A自立(自分の生活をする)
 B生活の保障
 各個人の状況に添った高齢者ケアの計画をつくり、適切なサービスの提供を行うこととしており、高齢者に対するケアとして在宅ケアと施設ケアの2つがある。

(1)在宅ケア
 在宅ケアの対象者は、高齢者に限らず、長期間難しい病気になって療養している人や障害者、子供のいる家庭となっている。各地域には、この在宅ケアを行うため、看護師、介護師、掃除はじめ諸々の面倒を見る人のチームがあり、2002年の統計では対象者は全体で3,187名、このうち65歳以上の人が83%、チーム従業員が399名で、訪問したケースが年間393,264件、全体のコストが1,240万ユーロ(約16億1,200万円)となっている。
 サービス内容はホームヘルプサービス、ナイトパトロール、配食、除雪、掃除や買い物などの補助サービスがある。

(2)親族介護手当
 親族介護手当は高齢者、障害者及び在宅で長期の療養を要する人たちの在宅での介護を支援するもので、親族が必要に応じて申請できることになっている。高齢者等と介護者と自治体の三者が契約を結び、介護内容に従って月額267ユーロ(約34,700円)から最高1,260ユーロ(約163,800円)が支払われる。最高の場合は24時間の介護となり、いわゆる施設に入ってもいいような状態の人の介護となる。
 親族介護手当を受けても、ケアされている人は他のケアサービスも受けることができる。
2002年には、443名がこの契約によってケアを受けており、このうち65歳以上の人は44%となっている。
 親族介護手当は全体で200万ユーロ(約2億6,000万円)弱となっているが、今後、研究の余地もあり、新しいサービスも考え直さなければならないとのことである。

(3)施設ケア
 施設ケアの代表的なサービスは、自宅で暮らすことができなくなった場合に、サービス付きの住宅に移ることで、老人ホームなどへの入居は24時間のケアが必要となった場合に限られる。

(4)サービスホーム
 食堂、マッサージルーム、美容室、図書室に付属して建てられている賃貸住宅で、入居者は入居の際にホームサービスやリハビリサービスなど必要なサービスを個別に契約、家賃のほかサービス料を支払うことになる。グレードは、@軽いもの A普通のもの B24時間ケアを必要とするものに分けられる。
 エスポー市内の市立の住宅は4棟88戸で軽いサービスを行っており、民間の建物は 3棟166戸、現在は民間の建物に入る人が多くなっている。

(5)グループホーム
 老人ホームや24時間ケア、スタッフがいるグループホームがある。老人ホームはショートスティ用の設備も整えている。痴呆症や身体障害を持つ人は、グループホームに入居している。
 エスポー市では市で建物を建てず、民間から必要なサービスを買って委託しており、 470ヵ所の住居及びサービスを提供している。民間のサービスにより入居する場合は、市の決裁を得たうえで入居することにより、市からの補助も受けることができる。個人で民間に直接申請し、入居することも可能であるが、その場合、月3,000ユーロ(約390,000円)くらい個人で負担しなければならなくなる。
 グループホームは、年間約40戸ずつ増加しており、2002年には850万ユーロ(約11億500万円)のお金が使われている。
 なお、フィンランドの高齢者サービスは施設ケアから住宅ケアへと転換しているため、老人ホームへの入居者は減少している。

(6)病院(施設サービス)
 社会福祉サービスで提供しているサービスでは、ケアが不可能になったときに保健医療センター管轄の病院に入院する。そのため病院は、保健医療サービスの施設サービスとなる。ただし、医療によるケアの必要がなくなると老人ホームやグループホーム、ホームケアを利用しながら在宅ケアへと移行する。
 2002年において、75歳以上の市民を対象に調査したところ、サービスを受けていない人が多く、実際に定期的なケアサービスを受けている人は22%で他の自治体と比較すると低い数字である。これを維持していくことが、これからの大きな課題であるとのことであった。
 エスポー市の2003年高齢者福祉費は7,000万ユーロ(約91億円)、2004年は更に増えるとのことである。7,000万ユーロの内訳は、
 ・在宅ケア        1,800万ユーロ
 ・住居(サービスホーム) 1,500万ユーロ
 ・施設          2,100万ユーロ
 ・病院          1,500万ユーロ
 ・その他          100万ユーロ
 今後の指針として24時間ケアをなるべく在宅ケアにしてもらうことで住み慣れたところで暮らすことができるし、高齢者自身も望んでいる。自治体にとってもサービスにかかるコストが低いことから指標としている。

5.エスポー市の少子化対策
 フィンランドには「ネウヴォラ」という国民すべての健康管理と医療行為に携わる保健相談所がある。
 ネウヴォラで妊娠が確認されると「父親手帳」と「母親手帳」の交付を受け、出産までの両親教育や妊婦検診などが受けられる。
 また、子どもが生まれると「子ども手帳」も発行され、以後の受診記録が就学までネウヴォラで記入される。
 児童福祉政策で、国内でも先進的な政策をとっているエスポー市では、この記録が学校へと引き継がれ、一人ひとりの学習指導に役立てられている。

(1)育児保障
 妊娠した女性は158日間の産休が取れる。出産すれば子どもが10カ月になったとき産休は終わるが、その間は収入の70%近くを保障する育児手当を受け取れる。子どもが3歳になるまでの間、希望すれば育児休暇を取ることができ、父親も同様である。

(2)保育サービス
 各自治体は、デイケアセンター(子どもの託児・保育施設)を整備することが義務付けられている。
 フィンランドでは、生後10カ月から保育所で子どもを預かる。保育所へ預けて仕事に復帰することもできるが、育児手当を受け取り自分で子育てすることもできる。
 エスポー市民は、0〜6歳までの70%は市で用意した保育所に入っている。また、3歳以下はなるべく家庭において、母又は父親が育児休暇(育児手当を受け)を利用して子育てするとの考えもある。
 エスポー市では、保育サービスを民間から買い取っており、全体の80%がエスポー市の施設で、20%が民間施設である。

6.施設見学
 施設名:スオメノヤ・デイケアセンター

(児童福祉施設:24時間保育の保育所)
 夫婦の共働きが当たり前となっているエスポー市では、保健施設の果たす役割は非常に大きい。この施設は、エスポー市最大の 24時間デイケアセンターで建物は市の施設、面積は700u。
 親がシフトで働いている人たちの子どもを預かっており、現在、入所している子どもの数は78名。スタッフは園長のほか保育士、掃除婦、特別保育児のためのアシスタントなど32名。この中には保育士と幼児教育の資格を持つ男性スタッフもおり、フィンランドでも珍しい保育所。コアタイムには、@3歳以下A3歳から5歳 B6歳就学前児童 C2歳から5歳までの兄弟 の4つのグループに分かれ保育が行われている。
 保育所はクリスマスだけが休みで、1年中開所しており、給食も作っている。食事としては朝、昼、夕の3食のほか、おやつとして軽いもの2回、合計1日5回出している。
 エスポー市は、首都ヘルシンキに近いことから両親が海外出張などに出かける家庭も多く、保育所に数泊することもある。
 就学児童の保育は、学校での授業終了後、教会や団体が行っており、ここでは特殊な問題を持っている子どもがいるので預かっているが、普通は預からないとのこと。
 保育費用の経費は親から徴収するが、額は家族の収入と家族構成により無料から月 200ユーロ(約2万6,000円)までとなっており、不足する分は自治体が負担している。

7.おわりに
 今回、4都市の公式訪問で唯一エスポーの市長さんの日程調整がつかず、お会いすることができなかったことは大変残念であった。
 いま、世界は少子化と高齢化が急速に進んでいる中にあって、エスポー市の高齢化率は8.9%とかなり低いものであるが、担当者の説明では2030年頃には一番ケアの必要となる85歳以上の高齢者が急激に増えてくることを懸念していた。
 フィンランド視察を行う中で、高福祉・高負担を掲げて世界の福祉をリードしてきた欧州諸国の仕組みも、エスポー市に見られるように、改革と「自分の人生を自分で決める」ためにも、本当に必要とする人に与えるサービスの正確な判断が求められていると感じた。
 そして、日本における高齢化率も、低い合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子どもの数)や平均寿命の伸長を反映して今後も上昇を続け、2015年には65歳以上の人が26%に達するものと見込まれている。
 高齢化をキーワードとして、年金・医療・福祉のあり方、国・地方・民間の担うべき役割分担、費用のあり方、NPO活動のあり方など大きな広がりを持った諸課題が自分達の生活に難題として横たわっている。望ましい高齢化社会がどうあるべきか身近な問題として、関心を持ちつづけていく必要があると思う。
 今回の視察に際し、担当者からスライドを用いて説明を受けたが、資料が現地語であること、図式のメモをとる時間的余裕がなく、更にわずかにいただいた資料も現地語のため和訳できないことに困惑した。