団 長 あ い さ つ
第27回海外都市行政視察に参加して
富良野市経済部長 秋 田  行

はじめに
 このたび、北海道市長会の海外都市行政視察にあたり、北欧を中心に4カ国、4都市の視察調査に参加する機会を得ました。
 10月17日より29日まで、13日間にわたる半ば強行スケジュールと思われる日程でしたが参加4市、事務局2名、添乗員1名の小規模調査団ではありましたが充実した研修であったと皆さんに感謝いたしております。
 今回の行政視察にあたっては、出発に際し調査団として以下の点を確認したところであります。
 その一つは、各自治体において大変厳しい財政事情の中、それぞれ行財政改革に取り組んでいる現状にあること。
 また、今回の研修は各市とも幹部職員の参加であり、13日間という時間の共有ができたことは地域情報交換など横の連携強化が図られたこと。
 そして、視察テーマに加え見聞を広め、視察調査の成果を深めるということであります。
 地方分権への取り組みが進められる中、日本の総人口減少と合わせ、北海道においても都市一極化が顕著であり、各自治体の共通の課題として、まちづくり、福祉、環境、自治体間の連携等々行政運営をはじめ、地方自治のあり方、適切な制度設計が求められています。
 そのような中、今回行政視察テーマとして、
・少子化対策と高齢者福祉施策について
 〜エスポー市(フィンランド)
・産業クラスターについて
 〜カルマル市(スウェーデン)
・環境保全対策について
 〜カルンボー市(デンマーク)
・観光振興とコンベンションについて
 〜ルガノ市(スイス)
各市、各関係団体を訪問し、調査を実施したところであります。
 以下、各テーマや各国の実情については調査団の報告に記述されているのでここでは全体的な印象の一端について報告します。

○エスポー市(フィンランド)
 早朝のコペンハーゲン空港からヘルシンキへ向かう機上から見るフィンランドは、森と湖の国といわれるとおり、大小さまざまな湖と大地が広がり、一面の森林の中に個々の住宅が点在する美しい国である。冬に入りかけたこの時期であったが緑に覆われた夏を想像するとうらやましい限りの感がある。
 最初の調査国、フィンランドのエスポー市では、まず市庁舎を訪問。高齢者福祉、児童福祉についてそれぞれ担当者から説明を受けた。
 エスポー市の概要であるが、首都ヘルシンキの衛星都市であることから、人口が増加し続け、現在、約222,000人の都市とのことである。
 大きな特徴としては、エスポー市を5つの行政区に分け、各行政区ごとに行政機能、商業エリアに分かれている。この形態は各行政サービスに反映されているが、財源の問題や各行政区間格差の是正という観点から対応の見直しを行っている。
 具体的にはテーマを4点掲げ各地域へ下すとともに予算分けを行うというものである。
 テーマとしては、@家庭と福祉 A保育 B医療 C高齢者 の4つの対策でこれまでの縦割りから横軸へ変更したいとのことであった。
 しかし、財源の問題については「コストがどうなるのか実施してみなければわからないが、全体の平準化にはつながる」との判断がある。
 エスポー市の年齢別人口割合は全国平均よりすべて若い街で、ヘルシンキの隣りということから人口流入が多く、特に若い家庭が増えている。
 保育所の整備、さらには教育程度が高く、生活水準も良いなどの理由から寿命が延びると判断し、高齢者対策が大きな課題となっている。
 エスポー市では、80%が共働きとのことであり、説明していただいた高齢者対策計画課長さん及び家庭児童福祉課長さんも女性であった。

〇カルマル市(スウェーデン)
 スウェーデン・スモーランド地方の中心都市であるカルマル市は、人口約60,000人の中世からの商業都市である。
 森と湖に囲まれたカルマル市は、バルト海交通の要所であり、デンマークとの領有権争いが繰り返されたところ。一部には現在でもその城壁の跡が残る美しい港町である。
 朝9時にカルマル市庁舎において、クエル・ヘンリクソン市長を表敬訪問し、市の概要説明を受けた。
 カルマル市は日本から多くの視察を受け入れており、今年も既に600人ほど来市しているとのことである。
 市長さん自身も本年5月から6月にかけ、日本において6ヵ所の町を訪問し、環境について講演を行ったということであり、来年も訪日の計画があるので、こんどは日本語の名刺を作るとのことであった。
 日本とスウェーデン共通の課題としては、人口が減っていることだとの認識がある。
 市長からは日本へ行く前の認識や日本での印象について熱っぽく話され、特に森林、木材の活用について説明を受けた。
 日本へ行く前は、ほとんど森林資源のない国と思っていたが、行ってみて森林の多さに驚くとともに環境問題、あるいは人の健康問題を含め、大きなビジネスチャンスと考えているとのことである。
 「環境にやさしいということは、経済的に損をしないということである」との言葉が大変印象的であった。
 現在、カルマル市が力を入れているものの一つにサイエンスパークがある。「人口60,000人の市は大きな企業にとっては小さな町であるが、しかし、カルマル市を含め100kmの範囲に3つの町があり、合わせると250,000人の都市になることを企業は見ている。ここに産学官の取り組みに向けたシーズがある」
ということである。また、それぞれの町に大学が存在し、その人材育成も取り組みのシーズになるとのことである。
 大学と企業を結び付けるのは、行政の役割だと考えている。しかし、時間のかかる仕事であり、常に頭に入れておく必要がある。
 また、これらのシーズを育てていく必要性から市民の間に興味を持ってもらうことが大切である。
 カルマル市はエネルギー省の株50%を民間に売却し、その財源で大学発展のための基金を創設し、大学の研究費等に充当させている。

〇カルンボー市(デンマーク)
 調査3ヵ国目のカルンボー市は、デンマーク東部の西シェラン州北部の港町であり、コペンハーゲンから車で1時間30分のところに位置し、積極的に企業誘致を行っている。
 デンマークは、国全体が環境保全システムの取り組みに積極的であり、基礎自治体としての市町村に産業廃棄物の排出・収集・処理・処分に至る全物流の管理に関する権限を与えている。

●産業シンバイオシス(共生)
 カルンボー地区の産業シンバイオシスについてアスネス発電所を訪問し、産業シンバイオシスについて調査を行った。
 説明について対応をしてくださったエアリング・ペーダーセン氏は、本年4月まで県の産業開発の責任者であったが、退職し、現在シンバイオシスのコンサルタント(責任者)であり、日本での講演を行ったことがある。
シンバイオシスのネットワークに参加しているのは、アスネス発電所をはじめ、ジプロック社(石膏ボード製造)・ノボノルディスク社(製薬)など8社及びカルンボー市であり、カルンボー地区のシンバイオシスは、世界で唯一のシステムで世界中の注目を集めている。
 シンバイオシスの利点として、副産物の再利用、このことは一つの企業の副産物は別の企業にとって貴重な原料となることであり、具体例として、発電所から発生する蒸気(熱)は、製薬会社のエネルギーとして利用している。
 また、精油工場からの廃棄物は建材会社で石膏板として利用され、さらに製薬会社からは酵素精製過程から出る残渣をP・N・Kに精製して近隣600戸の農家へ肥料として配布している。
 このようにカルンボー市で成功を収めた理由としては、
・ はじめから大きな計画を持たず進められてきたこと
・ 総合プロジェクトではなく、個々の企業によるプロジェクトで進められてきたこと(2〜3の企業の中で協力、同意されたものが進められてきた)
・ 背景に学術理論的なものがあったわけではなく利益を求め、実質的な投資が行われてきたこと
が大きな理由である。
 以上のことから、産業シンバイオシスを形成する条件として、
@ パートナー企業は別業種であること
A 各工場の距離はあまり離れていないこと(カルンボー市では、各企業の最大距離は1.6Km)
B パートナーの協力・理解(コミュニケーション)が不可欠で互いの企業の中身を良く知っていること
C ボランティア性が重要(率先して行う姿勢)
D 営業的・企業的に自発的な契約が必要
であり、カルンボー市としては、一つの構成員とし参加しているだけである。
 説明者のエアリング・ペーダーセン氏は、「システムはこのようなことを起こすが、実質的に動かすのは人間である」と結論付けた。

〇ルガノ市(スイス)
 チューリッヒ空港からベルン、グリンデルワルドを経由し、スイス南部のルガノ市までバスでの移動であったが、通過する市街地を外れるとすべてが牧草地で時期的にも牧草が伸びないことからか、芝生のような緑が続いていた。
 それが急斜面で高い所まで続き、まさに想像を絶する景観である。
 国策として耕作不利益に対する所得保障制度があるが、さすがに酪農王国と思わせるところである。また、環境的な観点から一戸当たりの飼養頭数に制限があると聞いているが、北海道的にみて小規模農家がほとんどのように思える。出来るものなら農家に飛び込んで話を聞いてみたいものだと感じた。
 最後の訪問市であるルガノ市は、スイス南部のティチーノ州にあり、イタリア国境に近く、ルガノ湖に位置し、ヨーロッパのリオデジャネイロと呼ばれる美しい街である。
 スイスは、ドイツ語圏、フランス語圏及びイタリア語圏に分かれるが、ルガノ市は感覚的にほとんどイタリアで人口30,000人の都市である。
 明年4月に近郊の町を吸収し、人口52,000人まで増加するとのことである。

 近い将来、その外周の町(農村部)を含め、12万人の町を目指しており、そこをルガノ市のお庭にしたいとのこと(市長談)。
 ルガノ市はスイスで3番目の経済都市であり、銀行が71行ある。さらにカジノを有するなど財政的にもかなり余裕があるように感じた。
 また、観光入り込み数については、年間宿泊者88万人であるが、ツーリストの種類として銀行の多いことから商用によるものが大半である。
 今回の視察にあたっても市長・副市長が揃って出席したことや市長自らの概要説明など熱心な説明を聞くと、今後、日本からの観光誘致に相当期待しているように感じたところである。

おわりに
 このたびの調査にあたり、ヨーロッパ4カ国4都市の長い歴史を背景に先進的な取り組み、また、コミューンとしての課題等を調査見聞できたことは大いに意義があったものと感謝するものであります。
 特に、ものの豊かさから心の豊かさに転換することが21世紀の時代であると期待するものであり、地域で一役を果たせるよう努めて参りたいと思います。
 あらためて各団員・市長会事務局・添乗員の田中氏のご指導、ご協力により無事研修を終えることが出来たことを心よりお礼申し上げ報告とします。